アルティザン・アンド・アーティスト株式会社マーケティング部 武者涼子様
インタビュー
ものづくりに対する強いこだわりを持ち、その高い機能性において国内外で高い評価を得ているアルティザン・アンド・アーティスト。ファッション業界にてマーケティング、PRとVMDを担当した後、2016年10月に同社のマーケティング部に入社した武者涼子さんに課せられたのは、マーケティングありきの商品づくりをし、認知度を高めるためのリブランディングでした。 今回は武者さんに、昨年スタートしたアンバサダー「A&A* Lovers」の起用をはじめ、デジタルとトラディショナルのマーケティングミックスによるリブランディングで手がけた具体的手法と、どうしてそれを実現することができたのかを伺いました。
まず、リブランディングをすることになった経緯をお聞かせいただけますか。
「ARTISAN & ARTIST*」(以下A&A*)は1990年後半、特にコスメポーチを中心として一世を風靡して盛り上がっていました。しかし私が入社した2016年頃は、40歳代以上で3人に1人ほどの認知度があったものの、30歳代になると少し厳しくなり、20歳代になるとほとんど認知度がないという状況でした。商品の良さがきちんとお客様に伝わってないのではないかということで、コスメ、ポーチ、バッグ、そしてカメラアクセサリーも一度コンセプトを練り直し、マーケティング視点で見てリブランディングしよう、マーケティングありきの商品づくりをしようということになりました。
改めて御社の強みをどのように定義されたのでしょうか?
当社の強みは第一に「ものづくりへのこだわり」と機能性。そしてやろうと思ったことはすぐ実現できる「スピード」 と 「機動力」です。
当社には、ものづくりへのこだわりとして4つのフィロソフィーがあります。ジャパンブランドとしての誇りをもつ「クラフトマンシップ」、ユーザー視点とシンプルな機能美を追求する「ファンクショナリティ」、心配りを実現する「パーフェクション」、新たなブランドを創り続ける「トラディション」です。この中でも特に当社の強みは、プロフェッショナルな人を満足させるだけでなく普段使いの人にも喜ばれる「ファンクショナリティ」です。
また、ドイツ人である社長は「生産性を求めて勤務時間内にきっちりと仕事を終わらせてオーバーワークにならないように働き、帰宅して家族との時間を大切にしてください」という考え方を持っています。販売員含めて社員は50人前後という規模なので、社長とダイレクトに話をすることもできますし、「こういうことがしたい!」という提案に対してすぐに対応できる環境があります。
商品はどのように作られているのですか?
例えばコスメポーチのモデルが100個くらいあるのですが、モデルによっては1人にしか作ることのできない高度な技術もあり、その方がインフルエンザにかかってしまうと納期が遅れることがリアルにあるんです。カメラストラップの方は、京都の伝統技術を持った職人さんと提携しており、職人歴60年以上の方も現役で活躍されています。
商品企画については、年に4回ある企画会議に販売員も参加し、シーズンごとにフィードバックを行い、コスメのトレンドに合わせてリニューアルしています。プロフェッショナルラインは昨年、メイクアップアーティストのyUKIさんに監修していただき一新しています。そういう機能性に関する開発はスピード重視でどんどん行っています。実は百貨店の化粧品メーカーが提供する多くのポーチは当社のOEMでコラボレーションしたものなのです。毎年企画していた、とあるメーカーは、1度やらない年があった時に売上がガクッと落ちてしまい、また復活して顕著に売上に影響したというケースもありました。機能性が充実しているところと組みたいというご要望が最も大きいようです。
強みを伝えていく手段として、自社のアンバサダーをつくることになった経緯は?
規模としては大きくないので他の外資系のようなマーケティング予算があるわけではなく、手探りでした。過去にSNSと動画を中心としたマーケティングを少しやっていたのですが、とてもいい動画をつくったにも関わらずあまり売上げに結びつかなかったことがありました。理由を考えたときに、その動画を広める手段というのが欠けていたのではないかと思ったのです。それでインフルエンサーのサービスについて調べたのですが、予算的に難しい。そこで、自社でアンバサダー「A&A* Lovers」をつくることになりました。
アンバサダーをつくって、UGC(User Generated Contents)が少しずつ起こってきて、売上げも伸びたということなのですが、成功した要素は何だったのでしょうか。
さまざまな手法のミックスがよかったのではないかと思っています。2017年の8月にアンバサダーをはじめて、10月から12月で多くのUGCが起こったのですが、同時に芸能人やモデルの方への商品提供もしていましたし、プレスリリース配信会社も有効活用していました。また今年の2月は、雑誌「&ROSY」(宝島社)とコラボレーションしたマーケティングを行いました。
当社の商品は機能性が良いということでweb上で口コミが増え、認知度も高まっていったのですが、安いものでも5,000円から7,900円ほどで”欲しいれど値段が高い”とも言われていて、そこがネックでした。
ところが2月にうちのポーチを付録にした「&ROSY」が発売される前「A&A監修のポーチが1,000円以内で買える」という口コミが発売前から広がり、発売後即完売。そして買った方みなさんがまさにアンバサダーとなって一気にUGCが生まれました。
YouTubeの影響も大きかったですね。「&ROSY」の商品が入手困難でしたので、入手できた方が嬉しくて、うちの機能性の良さを延々と語ってくれて、その動画がまた反響を呼んで口コミが広がっていったのです。
そして、20代、30代といった今迄少数派だった年齢層のお客様の店舗やECでの購入につながり、それまで、ポーチの消化率は3ヶ月でいいほうだと言われていましたが、今年に入ってから1ヶ月程度になりました。
一方でカメラアイテムはグローバルな展開なのですね。
カメラアイテムは、直営店は持たず販売店に卸す形で、現在アジアを中心にアメリカ、ヨーロッパで商品を扱っています。売上の比率も海外の方が高いですね。ポーチの横展開で、今年の1月から3月に「A&A*Photoholic」というアンバサダーをつくり、Instagramを中心に募集をかけ、現在ドイツ、インドネシア、香港、メキシコ、フィリピンにアンバサダーがいます。カメラの方はInstagramのフォロワーも9割が海外の方です。
アンバサダーの方には、商品を提供して、クリエイティブなビデオを作っていただくケースもあります。アンバサダーの方が協力してくださる理由は、海外でもうちのブランドポジションがとても高いからだと思っています。フィリピン、メキシコは取り扱っていないのですが、取り扱いがないのにうちのブランドをよく知っていて、アンバサダーに応募してくださっています。
リブランディングのプロセスで社内の変化はありましたか?
「&ROSY」とコラボレーションする時、社内から「付録で出したら、もううちの商品は売れないよ」「ブランドイメージがチープに思われてしまうのでは?」と不安の声があがり、説得するのが大変でしたが「恐れずに挑戦する」という社風に基づいて、臨みました。実際には、半年位これを使っていてよかったから次は母に買いますとか、同じモデルを買いに来ましたという声をいただきました。付録にしたら商品が売れなくなるということはなく、逆に付録を出したことによって、うちの良さを知ってもらうことができたのです。
第二弾では通常商品と同じリップ柄を使ったのですが、同じ柄を使うことに対する懸念の声もありました。でも、同じ柄にしたからこそ、この柄の新作の商品が見たいということでお客様から問い合わせがあり、購入につながるなど、プラスに働いたのです。これはうちの商品が本当にいいものだったからなんですよね。商品が良くなかったら付録を出したところで終わっていたと思います。
商品力の強さを、社内外で改めて共有したというのが大きいですね。今後の展開を教えていただけますか。
昨年11月、ブランドのアイコンとなるバッグを作ろうということで、マイクロバッグを発売しました。現在、銀座三越様で順調に売れていますが、まだまだバッグの認知度が低いので、今後はバッグにも注力したいと思います。
当社から機能性を取ってしまい、飽和状態になっているラグジュアリー系の市場に行ったところで勝てません。当社の強みであるものづくりへのこだわりはそのまま残す。大事にすべきことは大事にしていきながら、変化に柔軟なチーム、そしてユーザーとともにこの商品の魅力を共有し、伝えて行きたいです。
私自身、入社当時に、働く女性の生活に寄り添い、サポートできるような商品づくりをしていきたいという思いがありました。お化粧道具も、当社の商品ならきれいに整理整頓できてさっと出せるから時短にもなりますし、そういったことで働く女性のお役に立ちたいと思います。
(取材日:2018年9月20日)
アルティザン・アンド・アーティスト 株式会社
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エンリコ・ドムハート
ARTISAN&ARTISTブランドの企画・製造・販売。OEM商品の企画開発・製造