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好奇心が、新たな視点を生みだす

ボストン在住のジャーナリスト。米ニュース雑誌『Newsweek』日本版スタッフ、経済産業研究所(RIETI)研究員などを経て独立。2011年ハーバード大学ニーマンフェロー、2014年同大学ニーマン・ジャーナリズム財団役員に就任。著書に『メディア・リテラシー〜世界の現場から』『未来をつくる図書館〜ニューヨークからの報告』(共に岩波新書)がある。趣味は、チャールズリバー沿いのウォーキング、自転車、ハーバードスクエアの本屋とカフェ巡り。

 

Qジャーナリストになろうと思ったきっかけをお聞きします。


小中学生の頃から報道番組や新聞・雑誌が好きで、なかでも海外在住者の独特な視点で書かれたコラムや特派員レポートにワクワクしていました。いつか私もこんな仕事がしたいと憧れました。結婚して家族ができても、こういう仕事なら続けられそうだとも、漠然と思っていましたね。

高校時代には、英語の先生が「そんなに英語が好きなら『ジャパンタイムズ』を読む会を始めよう」と言ってくれて、放課後、仲間と集まっていました。個人的には洋楽雑誌『MUSIC LIFE』で取り上げる外国人ミュージシャンのインタビュー記事に興味がありました。 必ずしも超知的タイプではないのに、社会情勢や自分の考えを理路整然と説明できるのを知って、英語だけでなく、表現能力の違いにも興味を持つようになりました。

私の母の口癖は、「物事を多角的に見ることと、英語が話せれば世界が広がる」でした。日々の会話でも「別の人の視点から見れば、違って見えるんじゃない?」みたいに突っ込まれていました。近所や友達の家にもよく泊まりに行って、毎年、夏休みには親戚の家に長期滞在して、国内で「異文化体験」を積み重ねていました。同じ日本の家庭でも色々な違いがあって、それを分析するのも好きでした。こうした子供の頃からの体験や日本とアメリカなど違う場所に住むことで、私にも物事を多角的に見る価値観が備わったんだと思っています。

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Qこれまでの仕事でも、さまざまな経験をされてきたと思います。


ニューズウィークで働き始めた頃、編集会議で南アフリカのことが真剣に議論されていたり、セックスという言葉が普通に飛び交っていたりしてすごく驚きました。あと、当時のニューズウィークは「日本のニュースとは見方が違う」というキャッチコピーがあって、同じ出来事もいかに違った視点で捉えるかを大事にしていました。アメリカ人記者の日本を見る目も違っていて、毎日が勉強だったんです。

多角的思考、留学、ニューズウィークでの経験が『メディア・リテラシー~世界の現場から』の出版へとつながった気がします。

 

Q著書『未来をつくる図書館~ニューヨークからの報告』は、映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」の公開で再び注目されています。図書館に注目されたきっかけを教えてください。


大学や企業にいた頃は、リサーチするのに有料商業データベースを使うのが当たり前でした。ところが、フリーランスになってみると、高額でしかも個人契約が難しく途方にくれました。そんな時、ニューヨーク公共図書館が無料提供していたことを思い出して、公共図書館に毎日通うようになりました。すると、常連がたくさんいることに気がつきました。医療情報を調べている病人らしき人、起業準備をしている人、法律を調べている人など。養子セミナー、マイホーム講座などもありました。本に限らず、日々の暮らしの問題解決に、情報を積極的に活用している人たちが新鮮に映ったんです。図書館は 実は社会の情報インフラとして、重要な位置付けにあるものかもしれない、と興味が湧いてきたんです。

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Qどのようにリサーチされたのですか?


最初は文献で関連情報を徹底的に調べて、関係者にも随分インタビューしました。そのうち、利用者に焦点を当てるのが図書館の本質を伝えるのにふさわしいと思うようになりました。毎日、図書館の隅に陣取って様子を観察して、気になる人には声をかけて、利用目的や使っている資料、図書館サービスがその人に何をもたらしたのかなどを聞いていきました。声をかけるには勇気がいりますが、予想もしなかった面白い話が次々と聞けて、「こんな風に使うんだ!」と目から鱗の連続でした。

文章スタイルにもこだわって、読者の方が、あたかも図書館に居合わせて、現場を目撃しているかのように、私が感じた新鮮な驚きを再現するように工夫しました。

 

Qジャーナリストとしては、テーマに応じた事実を追求する取材活動がメインであると思います。一方で研究にも取り組まれてきました。2つの活動を続ける意図は。


ジャーナリストは日々のトピックを追うのに忙しくて、専門性や俯瞰的思考に乏しく、専門書や論文を読む暇もありません。一方、学者は社会的に意義ある研究をしても、一般向けにわかりやすい表現でコミュニケーションすることが苦手です。ジャーナリスティック(一過性、表層的)とアカデミック(世離れしている)は、時に揶揄する意味で使われると思いますが、この両者の強みを橋渡しするような、ジャーナリストを目指せればと思っています。

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Q日本ではメディア・リテラシーについて学ぶ場がすごく乏しいと感じます。


メディア・リテラシーの根本にあるのは「情報を持たない人は、情報を持つ人に常にコントロールされてしまう」という問題意識です。実践している国々では、情報へのアクセスや、情報を吟味する力を養うことで、 情報に惑わされず、自分で思考し判断できる市民を育てることで、初めて民主主義が機能するという考え方があります。

アメリカは経済や教育格差の問題が可視化されているので、情報アクセスやリテラシー育成の必要性が認識されていると思います。日本の場合は民主主義と情報の関係の認識不足や、物事を批評的に見ることへの抵抗感、社会的格差の見えにくさなどが広まりを阻めていると思います。

加えて最近の日本では、スマートフォンの普及で、 情報テクノロジーに日々触れていることが、リテラシーの高さと勘違いされている面もあると思います。例えば、ニューヨークの公共図書館では自宅にパソコンがない、Wi-Fi につながらないことがデジタルディバイドだと認識されていて、パソコンの提供はもとより、Wi-Fi接続機器の貸し出しなどもあります。スマートフォンだけでは難しい込み入ったリサーチや、情報を得て、それを吟味・咀嚼し、アウトプットするためのプレゼン講座も人気です。アメリカだと小学生ぐらいから、インターネット経由で宿題が出ますし、発表資料をつくるのにもコンピュータが必要です。日本はOECDの調査などでも、家庭にコンピュータがないことで知られていますが、社会的にそう問題視されていないのが気になります。

ただ、アメリカでも、誰もがリテラシーを身につけているわけではなく、本当に必要な層ほどその重要性を理解する機会がなかったり、こうしたものに懐疑的だったりする面もあるので、そう単純ではないのですが。

 

Q今後挑戦してみたいこと、取材してみたいと考えていることは。


いま興味を持っているのがフィクションでの表現です。ノンフィクションでは、その人がどんな人で何を考えているかを、本人やまわりの人の言葉で描けても、それが全てを語っているとは限りません。状況によっては、あえて言わない場合もあるでしょう。あくまで語られることは、事実の断片でしかありません。ノンフィクションは、対象を外側からなぞることはできるけれど、実はその一部しか描けないと思うんです。

フィクションは全くのつくり物だけれど、書き手がその人の体の中に入り込んで、本人の目から見た世界を描くことができます。小説を読んで、「なんかこれ自分のことみたい」とか、感情移入して共感できることも多いと思うんです。

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Qジャーナリズムの研究の先にフィクションにたどり着いたのはとても興味深いです。確かにどんなに取材をしてもどれだけ調べても、その人を外側から見た姿しか描けないですね。


いま、アメリカで子育てをしていて思うのは、 教育がいかに「アメリカ人」をつくっていくのかというプロセスは日本とは随分違っていて示唆に富むところもあると思うんです。それをフィクションにできないかと考えています。アメリカは差別や格差が社会的に認識されているので、あえて多様性を認め合う大事さを繰り返し教えていく必要があります。

民主主義の考え方、市民の責任、人権の意識、困った人達に対して手を差し伸べる、批判的思考の育成などは小学校ぐらいから徹底的に叩き込まれます。多様な思考も重視されていて、グループをつくる時、あえて考え方が違うメンバーを集めるんです。同じ人が集まっていると、結局「そうだよね」で終わってしまうけれど、「いや違うよね!」から議論が始まります。多様な視点が入ることで、スタート地点より着地点がずっと豊かになっている。

本の読み方でも、日本の場合は、本に書いてあることをそのまま吸収するような感じ。アメリカの場合、本はあくまでも素材で、小学生くらいから批評的な読み方を習い、それをクラスで語り合って、多様な感想に触れながら自分の読みや考えを微調整していきます。もちろん教育の格差も大きいので、ここでお話ししたことはあくまでもエッセンスですが。

ともかく、こうしたアメリカの教育の基礎的部分を、取材して記事にすることもできますが、これは直感的にフィクションで描くべきものだろうと思っています。7年くらい前から、子供の日々の生活、学校の教材、エピソードなどを書き溜めています。

 

Q多角的な視点を持つことをどう教育していくのか、原点に戻るようなお話です。


いろんな視点から世の中を見るというのは、私自身のテーマでもあるのですが、今度はアメリカの子供の教育というテーマでチャレンジしたいなと思っています。

 

(取材日:2019年08月19日)

菅谷 明子氏

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在米ジャーナリスト
プロフィール
ボストン在住のジャーナリスト。米ニュース雑誌『Newsweek』日本版スタッフ、経済産業研究所(RIETI)研究員などを経て独立。2011年ハーバード大学ニーマンフェロー、2014年同大学ニーマン・ジャーナリズム財団役員に就任。著書に『メディア・リテラシー〜世界の現場から』『未来をつくる図書館〜ニューヨークからの報告』(共に岩波新書)がある。趣味は、チャールズリバー沿いのウォーキング、自転車、ハーバードスクエアの本屋とカフェ巡り。

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