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老化した大脳皮質に新しく神経細胞をつくることができる細胞を発見

武庫川女子大学

!2017年9月11日 15時

武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科(所在地:兵庫県西宮市)の大平耕司准教授らは、老化した大脳皮質において、新しく神経細胞をつくることのできる細胞が存在していることを発見しました。本研究のポイント:1、老化マウス(ヒトの80歳相当)の大脳皮質に新しい神経細胞をつくることができる細胞(神経前駆細胞)を発見。2、生後1年のマウスまでは、大脳皮質の神経前駆細胞の数は維持されていたが、生後17ヶ月までに顕著に減少した。これは人で認知症が増加してくる60歳以降に相当。3、老化したマウスの大脳皮質に人工的に脳卒中を生じさせると、新しい神経細胞の産生が促進された。

 武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科の大平耕司准教授らは、老化したマウスの大脳皮質(注1)に新しい神経細胞をつくることができる細胞(神経前駆細胞(注2))が存在していることを発見しました。

 

 体を作る発生期だけでなく、成体内の組織にも、各組織の細胞に分化する能力を持ちながら増殖することのできる少数の細胞があります。このような細胞は、それらの細胞が存在している組織のもとになるという意味から組織幹細胞(前駆細胞)と名付けられています。肝臓や皮膚などの組織では、個体の一生を通じて組織幹細胞があることは知られています。脳は母体内にいるときに作られ、赤ちゃんとして誕生すると、新しい神経細胞は作られず、減少する一方であると考えられてきました。しかし、中枢神経系の中でも、海馬や嗅球は、一生神経細胞ができてくる部位であることが、ここ20−30年の間に明らかにされてきました。これまでに、本研究グループは、若い大人の大脳皮質にも組織前駆細胞が存在していること、これらの前駆細胞を薬剤で人工的に増殖させることが可能であること、新しくできてきた神経細胞が周りの神経細胞の脳卒中からの死滅を防ぐことなどを発見してきました。もし、老化した脳内にもこれらの前駆細胞が存在することが明らかとなれば、老化した大脳皮質が関係する認知症、アルツハイマー病、脳卒中などの脳疾患に対する治療法の実現が期待できます。

 

 今回本研究グループは、マウスの青年期から老年期にあたる生後5ヶ月〜24ヶ月の個体を用いて、大脳皮質内での前駆細胞の有無と、存在するのであれば、それらの数の変化について調べました。前駆細胞は、今回調べた全ての月齢の大脳皮質に存在が認められました(図1)。生後5ヶ月から12ヶ月までは減少もせず一定の数が保たれていましたが、生後12ヶ月から17ヶ月に、90%以上減少することを見出しました。マウスの生後12ヶ月は、ヒトの約60歳ごろに相当します。ちょうど60歳頃からヒトでは認知症の有病率が増加してくることを考慮すると、新しい神経細胞の産生が減少することが認知症の発症と関係している可能性があります。

 

 大脳皮質は、領域によって担当する機能が異なっています。例えば、大脳皮質の後部は視覚、中心からすぐ後の部分は触覚、その隣あった前部は運動に大きく関係しています。次に、大脳皮質の領域での前駆細胞の存在について調べました。興味深いことに、感情、判断、自己意識に関係する部位での減少率は、単純な運動や触覚に関係する部位の減少率より、顕著に低いことがわかりました。この結果は、大脳皮質でも高度な処理を行う部位は、よりその機能的保存が行われる可能性が高いことを示しています。

 

 最後に、老化した大脳皮質の前駆細胞の新しい神経細胞をつくる能力について調べました。マウスの生後5ヶ月齢と24ヶ月齢の個体に対して、人工的に脳梗塞を生じさせた時に、前駆細胞から産生されてくる新しい神経細胞数を数えました。生後24ヶ月でも脳梗塞に反応して、新しい神経細胞の産生が大幅に増加していました。また、24ヶ月齢で脳梗塞を起こした時の新しい神経細胞数は、5ヶ月齢の健常状態よりも、有意に多いことがわかりました。これらのことは、老化した大脳皮質の前駆細胞は、新しい神経細胞を生み出す能力を保っていることを示唆しています。

 

 

【参考図】

図1 老化に伴う大脳皮質の神経前駆細胞数の減少
大脳皮質の神経前駆細胞は、抑制性神経伝達物質であるGABAと細胞分裂マーカーKi67の二重で染色されます。生後12ヶ月から17ヶ月の間に90%以上が減少しました。

 

 

【まとめ】

 今回の研究により、老化した大脳皮質にも、新しい神経細胞を生み出すことができる前駆細胞が維持されていることが明らかとなりました。また、これらの前駆細胞が減少する時期は、ヒトの60歳ごろに相当していることから、認知症の発症と新しい神経細胞の供給との間に何らかの関係があることが示唆されました。今後、ヒト大脳皮質での神経前駆細胞の存在、老化過程での前駆細胞の変遷などを明らかにしていくことで、アルツハイマー病などの認知症との発症と大脳皮質の神経新生との相関性や因果関係について調べていく予定です。これらが明らかになれは、認知症や脳卒中などの脳の疾患から老化した大脳皮質を守るための予防•治療法に結びつく可能性があります。

 

 本研究成果は、総合生物学科学雑誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」のオンライン版に公開されました。

 

(注1)大脳皮質

大脳皮質は、認識、運動、思考、記憶、意識などの脳高次機能と密接に関連しており、ほ乳類になってから非常に発達した薄いシート状の構造で、脳の表面に位置しています。

 

(注2)神経前駆細胞

神経幹細胞は、未分化な性状を保ったまま増殖できる自己複製能と、神経細胞とグリア細胞に分化することができる多分化能の両方を持っています。神経前駆細胞は、神経幹細胞から産み出され、自己複製能を持ち神経細胞を産生することのできる少し分化した細胞です。

 

 

<論文タイトル>

“Population Dynamics of Neural Progenitor Cells during Aging in the Cerebral Cortex”

(老化した大脳皮質における神経前駆細胞数の変遷)



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