小児急性リンパ性白血病における維持療法の意義を確認~最新のゲノム解析技術を用いることで、小児がん治療のオーダーメイド医療に貢献~

東京小児がん研究グループ(TCCSG)の臨床研究の一環として、国立成育医療研究センター 小児がんセンター/小児血液・腫瘍研究部 加藤 元博と聖路加国際病院小児科 真部 淳らは、臨床試験の長期成績を最新のゲノム技術を用いて再度解析することで、小児急性リンパ性白血病の維持療法の期間の適正化につながる情報を得る事ができ、この情報が治癒率を下げずにより負担の少ない治療を組み立てることに貢献する成果を報告しました。

原論文情報

 

論文名:Long-term Outcome of Six-Month Maintenance Chemotherapy for Acute Lymphoblastic Leukemia in Children.(Motohiro Kato, Sae Ishimaru, Masafumi Seki, Kenichi Yoshida, Yuichi Shiraishi, Kenichi Chiba, Nobuyuki Kakiuchi, Yusuke Sato, Hiroo Ueno, Hiroko Tanaka, Takeshi Inukai, Daisuke Tomizawa, Daisuke Hasegawa, Tomoo Osumi,, Yuki Arakawa, Takahiro Aoki, Mayuko Okuya, Kiyohiko Kaizu, Keisuke Kato, Yuichi Taneyama, Hiroaki Goto, Tomohiko Taki, Masatoshi Takagi, Masashi Sanada, , Katsuyoshi Koh, Junko Takita, Satoru Miyano, Seishi Ogawa, Akira Ohara, Masahiro Tsuchida, and Atsushi Manabe)

掲載誌:Leukemia impact factor (2016): 12.104

 

【プレスリリースのポイント】

 

小児がんの中で最多の疾患である白血病・急性リンパ性白血病(ALL)の長期生存率(治癒率)は向上し続け、現在では80%を超えています。ALL治療の最後の段階である「維持療法」は、おもに内服の薬剤を用いて通院で行われます。その期間は1~2.5年が一般的です。

維持療法は比較的合併症の少ない治療と考えられていましたが、感染症や二次がんのリスクと関係し、長すぎる維持療法は患者の不利益になりうることが分かってきました。

患者である子どもの将来のために、さらに維持療法をよいものにする必要があります。したがって、個々のALL患者に適切な個別化医療(=オーダーメイド医療)を行うことの重要性は、ますます高くなってきたと言えます。

本研究グループは、過去行った臨床試験の登録患者の長期的な結果と、次世代シークエンサーなどの新しいゲノム解析技術を用いたALL細胞の解析結果を踏まえ検討することで、「どのようなALLには長い維持療法が必要で、どのようなALLは維持療法を短くしても治癒率が下がらないか?」を明らかにして報告しました。

この成果は、現在ALLの治療で一般的に行われている治療の「強さ」の個別化だけでなく、「長さ」も個別化することで、患者の負担を最小限にとどめつつ治癒率を最大限にするようなオーダーメイド医療につながると期待されます。

白血病など難治疾患の治療を改善させるためには、臨床試験で治療法の評価を行うことが必要です。臨床試験の長期的な成績を把握することで、より正確な評価ができることが今回の研究で確認されました。そして、小児がんの長期フォローアップの意義があらためて確認されました。

 

【背景・目的】

 

本邦では年間におよそ2000-2500人の小児が悪性腫瘍(がん)と診断されています。小児がんの治癒率は治療の進歩により向上しているものの、いまだに小児期の病死原因の第1位です。

白血病は小児期に発生する悪性腫瘍(がん)の中で最多の疾患で、その中でも小児急性リンパ性白血病(ALL)は最も頻度の多い病型です。ALL治療では、第一に白血病細胞を減らして正常な血液の産生を回復させる「寛解導入療法」、次に残った白血病細胞をさらに減らす「強化療法」が行われ、最後に「維持療法」が行われます。

この維持療法では、メルカプトプリンやメソトレキセートなどの薬剤で内服治療が行われ、1年~2年半の期間が一般的です。寛解導入療法と強化療法は入院で行われますが、維持療法は比較的合併症の少ない治療段階と考えられ、外来での通院治療で行われていますが、それでも感染症や二次がんの危険性と関連することが報告されるようになり、長すぎる維持療法は不利益になりうることが分かってきました。

近年の治療の進歩により小児ALLの治癒率は向上し、80%以上の患者で長期生存が達成できるようになり、以前のような「不治の病」というイメージではなくなりました。ですが、まだ現在でも一部の患者は再発を経験し、また一部の患者は合併症を併発しています。治癒率が高くなってきたからこそ、合併症をできるだけ避ける必要性も高くなり、それぞれのALLの患者の特徴に合わせて治療法を細かく調整する必要があります。

小児ALLの治療をさらに良いものにするためには、どのくらいの維持療法の期間が最適なのかを知る必要があります。しかし、小児ALLの治療の効果を判定するためには、5年、10年と長期の経過を観察しなければならず、日本で年間に500-800人しか発症しない小児ALLでは、まだ維持療法の最適な期間はわかっていませんでした。そのため、現在世界中で行われている治療でも、維持療法の期間は一定していません。

 

【研究手法と成果】

 

本研究ではまず、1992年~1995年に東京小児がん研究グループ(Tokyo Children’s Cancer Study Group: TCCSG)で行ったL92-13研究に登録された347人のALLの小児について、その長期的な治療結果を集計することで治療の効果を正確に判定しました。その結果、男児では充分な維持療法の期間が必要である一方で、女児では維持療法の期間を短縮しうることが明らかになりました。

さらに、小児ALLの治療をより適切に行うためには、ALLの細胞を詳しく検査し、どのような特徴を持っているのかを把握して、それぞれの特徴に応じた治療を選択することが重要なことが分かっています。しかし、L92-13研究が行われていたころにはまだ確立していなかった検査などもあるため、ALL細胞の特徴を振り返って検査する必要がありました。そこで、L92-13研究に登録されたALLの診断に用いた骨髄塗抹標本からDNAを回収し、SNPアレイによるコピー数解析と次世代シークエンサーによるintron capture sequencing法を用いて、ALL細胞にみられる特徴を詳しく調べました。

その結果、ETV6-RUNX1融合遺伝子が陽性のALLや、TCF3-PBX1融合遺伝子が陽性のALLに対しては、維持療法を短くしても治癒率を保つことができますが、高二倍体のALLに対しては、維持療法を一定期間以上行うことが必要であることを見出しました。

この研究は、日本学術振興会、日本医療研究開発機構、武田科学振興財団、白血病研究基金、がんの子どもを守る会の支援を受けて行われました。

 

【今後の展望】

 

本研究の成果は、どのようなALLには長い維持療法が必要で、どのようなALLには維持療法を短くしても治癒率が下がらないか、を明らかにしました。すでに、ALL細胞の治療のききやすさを予測して、個々の患者に対して治療の「強さ」を調整することは日本も含めて世界中で一般的に行われています。本研究の成果により、治療の「強さ」だけでなく、治療の「長さ」も個別化することで、合併症を最小限にとどめつつ治癒率を最大限にするような治療方針の確率につながることが期待されます。

また、白血病などの治療を改善させるためには、臨床試験という形で治療法の評価を行うことが必要ですが、長期的な成績を把握することでより正確な評価が可能となることが今回の研究でも認識され、小児がん患者の定期的な診察と検査による長期フォローアップの意義があらためて確認されました。

 



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企業情報

企業名 国立成育医療研究センター
代表者名 五十嵐 隆
業種 医療・健康

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