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バイラルメディアはわからない。ニュースアプリはオシャレじゃない。ページビューは大事じゃない。

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記者100人の声
AOLニュース
恩納 力 氏
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テック系メディア「TechCrunch」やガジェット系メディア「Engadget」を抱えるAOLオンライン・ジャパン。このメディア企業の核を務めるAOLで「AOLニュース」編集長を務めるのが恩納力氏だ。ネットメディアながら、独特の価値観を持つ恩納氏に話を聞いた。

月給8万円、今でいうブラック企業で働いた


Q恩納さんはもともと社会人は記者として始まったのでしょうか。


卒業後、記者とは畑違いの極めて怪しい会社に入社しました。就職活動を全然せず、中学高校の教員免許を取ったらどこにでも就職できるだろうと思っていたのが甘かった。「やばい、どこかに就職しなきゃ」と思った時は既に遅し。適当に入った会社が今で言うところのブラック企業みたいなところだったんです。 朝7時半出社で、便所掃除だの、お茶出しだのでかり出され、月給は8万円。

1年後にソフトウエア開発会社に転職しましたが、そこも結構なブラックでした。未経験可と書いてあって月給16万円。そこで2年ほど修行して、パソコンを触れるようになりました。その後は、上場前のグローバルメディアオンライン(現GMO)やトランスコスモス傘下だったリッスンジャパンなど転々としました。
社会人になって、1社目からほとんど寝ずに働いてきました。人の数千倍は働いたと思います。

 

Q怒涛の社会人生活ですね。ネットニュースの世界に入られた経緯は。


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たまたま飲み会で知り合った人が、ブログサービス『ココログ』の当時の責任者の方でした。サービス強化をしたいとのことで、ニフティに呼んでくれたんです。鉄砲玉みたいな人間が欲しかったようです(笑)。でも、『Ameba Blog(アメブロ)』や『livedoorブログ』にさっと抜かれてしまい、『ココログ』はニフティの注力サービスから外れてしまいました。その後はニフティのポータルサイトの映画や音楽を担当。ガジェット通信さんと協業させて頂いて夕刊ガジェット通信を作って、ネットニュースを展開し始めました。

 

 

Qネットニュースに関わっていかがでしたか。


2006年頃にアメーバニュースをやっていたサイバーエージェントの古川政博さん、ネットニュース編集者の中川淳一郎さんと出会いました。アメーバニュースは、「Yahoo!ニュースとは全く違う、今までにないネットならではのニュース媒体を作る」という意気込みで始められて、初期は新しくてやんちゃな感じでした。ガチで体張った記事や芸能ゴシップもおかまい無しにバンバンあげては、よく怒られていたようです(笑)。

面白い人がやればニュースは面白くなる。それを初めて感じたときでしたね。古川さんや中川さんからは、今も多大な影響を受けています。それから、中川さんに「面白い人がいるから会ってみな」と紹介されたのが博報堂ケトル共同CEOの嶋浩一郎さん。当時、広告業界のことを全く知らなかったんですが、嶋さんからもとても影響を受けました。

2012年4月に嶋さんや中川さんと『THE WORKAHOLICS』というビジネスサイトを作りました。めちゃくちゃ働いている人、つまり社畜限定のサイトで、「働いて死ね」とか普通に書いていました(笑)。人気が出たサイトだったのですが、当時、世間ではワークライフバランスが叫ばれていて、色々と問題になってしまいました。編集者人生を賭けて、刺し違える覚悟でリリースしたのですが、本当に刺し違えちゃいましたね(笑)。

 

QAOLニュースへはその後に?


はい。「メディア事業に力を入れていく」というAOLから、新しいネットニュースを作りたいとお声がけをいただいて、AOLニュースを立ち上げました。2013年4月の開始から3カ月で月間400万PVを達成しました。現在は500万PVぐらいです。

 

 

「ページビュー」よりも人を動かせるほどの「ブランド」を


QAOLニュースを見ると、動画や画像が多い印象を受けます。


パソコンからスマホへの移行が生み出した変化だと思いますが、ネットニュースは今後、テキストが減っていくと思います。相当意識の高いユーザーでないと長い文章は読みません。なので動画や画像をメインで見せることには割と早くから取り組んでいました。

 

Qバイラルメディアをどう見ていますか。


riki_onno02バイラルメディアって叩きやすいし、叩かれやすいですよね(笑)。バイラルメディアの運営者を見て思ったのが、「若いし、なんでもアリだし、こいつらとは戦えないな」ということです。お金も使わないし、専業ライターも使っていない。どこのバイラルメディアもコンテンツは一緒なのに、何千万PVを達成してしまう。理解不能な世界なのに、数字は出ている。

今35歳なんですが、もう新世代の流れや仕組みにはついていけないなと。俺はバイラルメディアに向いてない。でも、ブームが去って焼け野原になってから、ちょっとやってみたい気はしています。

 

Qでは、AOLニュースの目指しているポジションはどこなのでしょうか。


理想は、Tシャツを作ったらユーザーがこぞって欲しがるようなブランドを作ることに尽きます。

そのためにも長く続くように頑張ります(笑)。数多くのネットニュースがありますが、生き残るのはきっと、ロケットニュース24、ガジェット通信、ねとらぼくらいですかね。その次にウチ(笑)。後進で大変な位置ではありますが、来年くらいに1,000万から2,000万PVを超えてくれば有り得るかなと。

 

Q目標値を達成するために取っている施策は。


この1年でAOLニュースという空母を作りました。今後は、その下に色んな専門サイトをぶらさげようと考えています。『THE WORKAHOLICS』を閉じられたことへの復讐ともいえる(笑)、『THE HARDWORKERS(ハードワーカーズ)』を今年9月に立ち上げました。ユーザーの属性が社畜なので、彼らを深く刺していく暑苦しいサイトにしていくつもりです。

 

Qコンテンツを作る時のポリシーは。


AOLニュースでは、人を貶め入れないというのを徹底しています。今の時代、一つの記事が様々なところに配信され、拡散していきます。メディアのポリシーとして責任の取れない記事は出さない。うちのライター陣は全員一致して「炎上してまで数字を取りに行きたくない」と言っています。数字が取れるからと言って、人を貶めるような記事を書くのはライターだって嫌なんです。ちなみにうちのライターの採用基準ですが、紙媒体の経験がある人です。紙媒体でライターをやっていた人は、企画も面白いし、足でネタを探してきてくれるので。

 

Q企業の広報担当者に伝えたいことは。


広報の方ってネットニュースに対して、若干ビビっているところがある気がしています。何書かれるか分からない不安を持たれている人も多い。その辺の感覚はぜひ取り除きたいですね。ネタはたくさん欲しいので、リリース送ったらダメなんじゃないかなんて思わないでほしい。偉そうなサイトっていっぱいありますけど、俺たちは意外にメチャメチャ優しいですよ!

 

 

ネットよりも紙やテレビの発想の方が面白い


Qニュースアプリの存在はどう見ていますか。


ニュースアプリの今の流れはあんまりオシャレじゃないので好きではないですね。ポータルサイトとの連携と変わらないですよね。新聞社・雑誌系の人たちは何であんな簡単に軍門に下っているんですかね。PVを返してもらっても金は儲からないし、部数もアップしないのに。

レガシーメディアの人たちが新興ネットメディアのトラフィックがあるからどうのこうのとか、意味が分からない。前々からコンテンツを作っているメディアとそれをアグリゲートしているだけの立場のパワーバランスの悪さを許せなく思っています。もっとやり方あると思うんですけどね。

『Gunosy(グノシー)』にしても『SmartNews(スマートニュース)』にしても、莫大な金額の投資が入っています。その資金をコンテンツ作る側に回せよと言いたいですよ(笑)。仕組みとアルゴリズムだけじゃないですか。本来ならコンテンツを作る側が儲かるべきだと思います。

そういった意味だとLINEニュースは別格。各ジャンルに人がいて、複数ジャンルをまたいで見られる編集者がいると聞きます。この人たちが本当によく記事を見ているんですね。彼らは「ざっくり言うと」でユーザーに新しい価値を提供しつつ、実際の記事はきちんとリンクで飛ばす。記事を「読む」から「見る」に変革させて、忙しい人にとって新たな価値を提供していますよね。すごく志が高いと思うし、革新的だと思います。Newspicsも楽しみですよね。

お察しかもしれませんが、俺、考え方が古い人間なんです。最近、偉そうになってきて講演依頼が来るんです。呼んでいただく方にはネットならではの答えを期待されているんですが、講演ではネット全否定から始まります(笑)。新聞社もテレビも雑誌も、ちゃんと復活してほしい。俺はネット見ているよりも紙メディアやテレビを見ている時間のほうが圧倒的に多いし、そっちのほうが好きです。何より発想が面白いですよね。

 

(取材日:2014年8月27日)

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